国の支援制度を活用しようとすると、必ず登場する 2 つの言葉があります。

「補助金(ほじょきん)」と「助成金(じょせいきん)」

どちらも国や自治体からお金が出る制度ですが、制度の性格・必要な専門家・採択率まで大きく違います。違いを理解しないまま申請すると、間違った専門家に依頼して時間を浪費したり、本来活用できた制度を見落としたりします。

この記事では、私が厚生労働省で助成金審査官として制度運用に携わってきた経験から、補助金と助成金の 5 つの違いを比較表で整理し、両方を組み合わせる戦略まで解説します。

この記事で分かること

  • 補助金と助成金、5 つの根本的な違い
  • 監督官庁・公募制度・採択率・金額・必要な専門家の比較表
  • どちらを使うべきかの判断基準
  • 両方を組み合わせる戦略パターン

補助金と助成金、5 つの違い

まず結論を比較表で示します。それぞれの項目を順番に詳しく解説していきます。

観点補助金助成金
監督官庁経済産業省・中小企業庁・自治体厚生労働省
対象設備投資・DX 投資・新事業立ち上げ雇用・人材育成・働き方改革
公募制度公募制(年 3-4 回)通年(要件を満たせば随時申請可)
採択率30〜60%(審査制)要件を満たせばほぼ確実
金額規模数十万〜数千万円(1 件あたり)数十万〜数百万円(1 件あたり)
必要な専門家行政書士・経営コンサル・中小企業診断士社労士(独占業務)

違い 1: 監督官庁 — どこが管轄しているか

最大の違いは「どの省庁が管轄しているか」です。

補助金は主に経済産業省・中小企業庁・各自治体が管轄します。経済政策・産業政策の一環として、設備投資や新事業立ち上げを後押しする目的で設計されています。

助成金は厚生労働省が管轄します。雇用安定・人材育成・働き方改革といった、労働政策の一環として設計されています。

この違いが、後述するすべての違いの源泉になっています。

違い 2: 対象 — 何のためのお金か

補助金は「設備投資・DX 投資・新事業立ち上げ」が主な対象です。代表的な補助金は以下です。

主な補助金

  • ものづくり補助金: 革新的な製品・サービス開発、生産プロセス改善
  • 省力化投資補助金: 人手不足解消のための省人化・自動化投資
  • IT 導入補助金: 業務効率化のための IT ツール導入
  • 事業再構築補助金: 思い切った事業転換・新分野展開
  • 各自治体の補助金: 江東区 HP 補助金、東京都の各種補助金など

助成金は「雇用・人材育成・働き方改革」が主な対象です。代表的な助成金は以下です。

主な助成金

  • 人材開発支援助成金: 従業員向けの研修・教育訓練の費用補助
  • キャリアアップ助成金: 非正規雇用から正規雇用への転換、待遇改善
  • 雇用調整助成金: 経済上の理由で従業員の雇用維持に努める事業主への補助
  • 働き方改革推進支援助成金: 労働時間短縮・年休取得促進などの取組への補助
  • 両立支援等助成金: 育休・介護休業の取得支援

要するに、補助金は「モノ・事業への投資」、助成金は「ヒト・働き方への投資」と覚えるのが分かりやすいです。

違い 3: 公募制度 — いつでも使えるか

ここが実務上、最も大きな違いです。

補助金「公募制」です。年に 3〜4 回(補助金種別による)の決まった公募期間があり、その期間内に申請を完了する必要があります。公募期間外には申請できません

例えば、ものづくり補助金は通常年 3-4 回の公募があり、各回の公募期間は 1-2 ヶ月。次の公募まで数ヶ月待つ必要があります。

助成金「通年制」です。要件を満たせば、いつでも申請できます。「次の公募まで待つ」という制約がないため、計画的に活用しやすいのが特徴です。

例えば、人材開発支援助成金は、研修開始の 1 ヶ月前までに訓練計画届を提出すれば、いつでも活用できます。

違い 4: 採択率 — 通る確率が違う

補助金は審査制のため、申請者全員が採択されるわけではありません。採択率は補助金種別・公募回によって変わりますが、概ね 30〜60% 程度です。事業計画の質・政策目的との合致度が問われるため、申請内容によって明確に差がつきます。

一方、助成金は要件を満たせばほぼ確実に支給されます。「採択者を選ぶ」のではなく「制度の対象になるかを判定する」性格のため、形式要件を満たせば支給される設計です。

ただし、助成金も書類不備や要件未達があれば不支給になります。「ほぼ確実」とは、書類が完璧に整っていることが前提です。

違い 5: 必要な専門家 — 誰に頼むべきか

補助金と助成金は、必要な専門家が異なります。これは法律で明確に区別されています。

補助金の専門家

補助金は「行政書士・経営コンサル・中小企業診断士」の領域です。申請書類の最終作成・提出代行は行政書士の独占業務、事業計画の戦略設計・申請ストーリー構築は経営コンサル・中小企業診断士の領域です。

詳しくは 補助金は行政書士?コンサル?選び方ガイド をご覧ください。

助成金の専門家

助成金は「社会保険労務士(社労士)」の独占業務です。社労士法第 2 条で、労働社会保険諸法令に基づく申請書類の作成・提出代行は社労士の独占業務と定められています。

助成金の申請を、社労士でない者が報酬を得て業として行うと、社労士法違反になるリスクがあります。助成金は必ず社労士に依頼するのが安全です。

どちらを使うべきかの判断基準

補助金と助成金、どちらを優先すべきかは、自社の課題と目的次第です。

補助金が向いているケース

  • 設備投資・システム投資を計画している
  • 新事業・新サービスを立ち上げたい
  • DX 推進・業務改革に資金を使いたい
  • 数百万〜数千万円規模の投資を計画している

助成金が向いているケース

  • 従業員の研修・教育訓練を実施したい
  • 非正規雇用の正規化や待遇改善を進めたい
  • 労働時間短縮・年休取得促進などの働き方改革を進めたい
  • 確実に支給される制度で、計画的に活用したい

補助金 + 助成金を組み合わせる戦略

実は、補助金と助成金は両方使えることが多いです。組み合わせると効果が最大化します。

パターン 1: 設備投資 + 研修

ものづくり補助金で新しい設備を導入し、その設備を使いこなすための従業員研修を人材開発支援助成金で実施する。設備(補助金)と人材(助成金)をセットで強化する組み合わせです。

パターン 2: 業務改革 + 働き方改革

IT 導入補助金で業務システムを導入し、それによる業務時間削減を働き方改革推進支援助成金で経営改善する。システム(補助金)と労働環境(助成金)をセットで改革する組み合わせです。

パターン 3: 新事業立ち上げ + 雇用

事業再構築補助金で新事業を立ち上げ、その事業のための新規雇用にトライアル雇用助成金やキャリアアップ助成金を活用する。事業(補助金)と雇用(助成金)をセットで成長する組み合わせです。

注意: 補助金と助成金で「補助金」が併給制限される場合あり

補助金と助成金は基本的に併給可能ですが、同じ目的・同じ経費に対しては併給できないのが原則です。例えば、ものづくり補助金で購入した設備を使った研修費用を、人材開発支援助成金でも申請する場合、研修費用部分が二重計上にならないよう注意が必要です。

各制度の併給制限は公募要領に明記されているので、事前確認が必須です。専門家に相談する場合、補助金は経営コンサル・行政書士、助成金は社労士、と分けて相談するのが現実的です。1 つの会社で「業として」両方を扱うのは法律上難しいことが多いためです。

まとめ: 「モノは補助金、ヒトは助成金」+ 組み合わせる

補助金と助成金の違いを整理すると、以下のようになります。

  • 補助金: 経産省系、設備・事業への投資、公募制、採択率 30-60%、専門家は行政書士・コンサル
  • 助成金: 厚労省系、雇用・人材への投資、通年制、要件を満たせばほぼ確実、専門家は社労士
  • 組み合わせ: 「モノ + ヒト」「システム + 労働環境」のセット運用で効果最大化
  • 注意: 同じ経費の併給はできない、専門家は補助金/助成金で分けて相談

Techt は、補助金活用支援を提供しています。助成金(人材開発支援助成金など)については、補助金との組み合わせ戦略のアドバイスを行い、実際の申請は提携する社労士をご紹介する形で、両方を使いこなせる体制でサポートしています。詳細は 補助金活用支援ページ をご覧ください。

補助金支援の専門家選びは 補助金は行政書士?コンサル?選び方ガイド、補助金の全体像は 補助金 採択とは?採択前後の全体像 も合わせてどうぞ。

※本記事は 2026 年 5 月時点の制度・実務に基づく一般的な解説です。各補助金・助成金の詳細要件・併給制限は、最新の公募要領または各制度の所管官庁の公式情報をご確認ください。