結論から言うと、AIを使いこなせるかどうかは、AIの性能ではなく「指示の出し方」でほとんど決まります。同じAIでも、人によって返ってくる答えの質に大きな差が出るのはそのためです。
私たち Techt は、ホームページ制作から経理まで会社の実務をAIで回している会社です。毎日の中でつかんだ「良い答えを引き出す指示のコツ」をお伝えします。Claude CodeでもCodexでも、コツは同じです。
先にいちばん伝えたいこと
AIは、使う人を超えません。
良い指示とは、自分の仕事や論点を整理して言葉にすることです。
道具の使い方を覚える以上に、自分の商売を自分で説明できるように整理しておくことが、遠回りに見えていちばんの近道です(2026年7月時点)。
なぜ同じAIでも、人によって差が出るのか
AIは、あなたの頭の中までは読めません。仕事場(AIが見られるフォルダ)を作っていないうちは、渡された言葉だけを手がかりに答えを組み立てます。「いい感じにして」とだけ頼めば当たり障りのない一般論が返り、背景や条件を渡せば、あなたの状況に合った答えが返る。差を生んでいるのはAIの賢さではなく、こちらが渡した情報の量と具体性です。
言い換えると、AIは「優秀だけれど、あなたのことをまだ知らない新人」に近い存在です。指示があいまいなら仕事になりませんが、前提と段取りを伝えれば期待以上の速さで仕上げてくれます。使いこなすとは、この「伝え方」を身につけることです。
悪い指示と良い指示は、何が違うのか
いちばん分かりやすいのは、同じ依頼を「悪い指示」と「良い指示」で見比べることです。たとえば「お店のチラシを作りたい」という同じ目的でも、頼み方でこれだけ変わります。

悪い指示:「チラシ作って」
これでは、誰に向けたチラシなのか、何を一番伝えたいのか、どんな形で出してほしいのかが何も分かりません。AIは仕方なく、どこにでもありそうな文章を返します。
良い指示:「30代の女性向けに、美容室の新規開店チラシの文案を作ってください」
相手(30代女性)・目的(新規開店の集客)・素材(強みは駅から徒歩1分と個室)・出力の形(コピー3案+箇条書き)がそろっています。同じAIでも、返ってくる答えはまるで別物になります。
魔法の言葉があるわけではなく、必要な情報を渡しているかどうかだけの違いです。チラシそのものの作り方はチラシの文面をAIで作るで解説しています。
指示の5つの要素
私たちが実務で意識しているのは次の5つです。全部を毎回書く必要はありませんが、答えが物足りないときは、この5つのどれかが欠けていることがほとんどです。

① 前提・背景を渡す
いちばん効くのがこれ。「誰に・何のために・どんな場面で」を1〜2行足すだけで答えが変わります。仕事場を作れば、毎回書かなくてよくなります。
② やってほしいことを1つに絞る
一度に頼むと、答えはどれも浅くなります。大きな相談は「考える点を洗い出して」→「集客を深掘りして」と割って、順番に渡します。
③ 出力の形式を指定する
「箇条書きで」「そのままメールに貼れる文章で」と形を指定すると、手直しが減ります。何に使うかを想像して、先に伝えます。
④ 段階的に頼む
一発で満点は出ないのが普通。6割の答えを早く出させて、「もっと短く」と会話で直すほうが速くて良いものになります。
⑤ 事実の確認は、人がやる
AIはもっともらしい誤りを書くことがあります。日付・数字・固有名詞は、最後に必ず人が確認。清書はAI、正しさの担保は人です。
同じ頼みごとがこう変わる
夏季休業のお知らせ文を作ってもらう場面で、最初から最後まで通しで見てみます。パン屋さんを例にしますが、業種を入れ替えればどの商売でも同じです。
まず、悪い指示で頼むと
「お知らせ書いて」
返ってくるのは「平素より格別のご愛顧を賜り」で始まる、どの店の何のお知らせにも見える定型文です。日付も中身も入っていないので、結局ほぼ全部を自分で書き直すことになります。
次に、5つのコツを入れて頼むと
「当店は、住宅街で夫婦でやっている小さなパン屋です。8月13日から16日まで夏季休業をいただくので、ホームページに載せるお知らせ文を作ってください。読むのは、ふだん通ってくださる近所の常連のお客様です。
入れてほしい内容は3つです。休業の期間、8月17日から通常どおり営業すること、予約注文は8月12日のお受け取り分まで対応できること。
今回はホームページ用の文章だけでお願いします。SNS用は、これが決まったらあとで別に頼みます。
形式はタイトル1行と本文200字前後で、かしこまりすぎない、ふだんの接客に近い言い方にしてください。日付が合っているかは、最後にこちらで確認します」
今度は、休業期間・営業再開日・予約の締め切りがもれなく入った、常連のお客様向けの言い回しの下書きが返ってきます。直すところは、言い回しの好みくらいです。
この指示を分解すると、店の説明と読み手を渡したところが、①の前提・背景です。「今回はホームページ用だけ」と区切ったのが②、タイトル・文字数・言い方を伝えたのが③にあたります。
仕上げに、往復1回
「ほぼこれでいいです。予約の締め切りは見落とされたくないので、本文の最初のほうに動かしてください」
AIは、指定した箇所だけを動かした修正版をすぐに返してきます。この「受け取って、言葉で直す」が④の段階的に頼む、です。
最後に、休業の日付が合っているかを自分の目で確かめてから載せます。ここが⑤の、事実の確認は人がやる、です。頼み始めから完成まで、特別な言葉は1つも使っていません。
直し方の順番
答えが的外れでも、AIが賢くないのではなく、直し方の順番を知らないだけのことがほとんどです。私たちは次の順で直しています。
まず、前提を足す
一般論が返ってきたら、背景(業種・目的・相手)が足りていないサインです。「◯◯という前提で、もう一度」と情報を追加します。
次に、1つに絞る
答えがどれも浅いなら、一度に頼みすぎです。論点を分けて、1つずつ渡し直します。
最後に、形を指定する
使いにくい形で返ってきたら、「箇条書きで」「表で」「もっと短く」と出力の形を伝えます。
この3つを順に試すだけで、答えの質はほとんどの場合改善します。一度で決めようとせず、会話で寄せていく。AIとのやりとりは一問一答ではなく、下書きを一緒に育てる共同作業です。
良い指示ができる人の正体
ここまで読んで、気づいた方もいるかもしれません。良い指示に必要なのは、AIの専門知識ではなく「自分の仕事を整理して言葉にする力」です。前提を渡せるのは、自分の業種や相手を理解しているから。論点を1つに絞れるのは、何が重要かを分かっているから。形を指定できるのは、成果物の使い道が見えているから。
AIは自分の理解を映す鏡のようなもので、ぼんやりとしか分かっていないことは、頼んでもぼんやりとした答えしか返ってきません。だからこそ土台になるのは、道具の操作テクニックよりも物事を筋道立てて考える力です。この考える力は、論点分解や良い問いの立て方など、考える力コース(6本)で1本ずつ鍛えられます。
私たち Techt が「清書はAIに任せる、何を頼むか・その答えが正しいかの判断は人がやる」という形を守っているのも、この考え方が理由です。AIは、考える力を肩代わりする道具ではなく、考えを速く形にする道具だと捉えると、いちばん力を引き出せます。
まとめ
- 同じAIでも答えの質が違うのは、渡した情報の量と具体性の差。仕事場を作れば前提は毎回書かなくてよくなる
- 良い指示の5要素は、①前提・背景を渡す ②1つに絞る ③出力の形式を指定する ④段階的に頼む ⑤事実の確認は人がやる
- 指示文を毎回完璧に書く必要はない。短く頼んで往復で直すほうが速く、5つのコツは答えが物足りないときの点検表として使う
- 答えがずれたら「前提を足す→1つに絞る→形を指定する」の順で直す。一度で決めず、会話で寄せていく
- 良い指示ができる=自分の業務や論点を整理できていること。土台の考える力は考える力コースで鍛えられる。AIは考える力の肩代わりではなく、考えを速く形にする道具
よくある質問
Q.AIを使いこなすには、何から始めればいいですか?
まず「頼みごとを言葉にする練習」から始めるのが確実です。AIは、あなたが伝えた情報の範囲でしか動けません。最初から完璧な指示を目指さず、①何をしてほしいか ②背景や条件 ③出してほしい形(箇条書き・表など)の3点を添えて頼むだけで、返ってくる答えの質は変わります。うまくいかなければ、その場で「もっと短く」「表にして」と追加で頼み直せば十分です。Techtでも、社内でAIに頼むときはこの3点を先に書き出すことから始めています。
Q.AIが的外れな答えを返すのは、なぜですか?
多くは「指示が足りない」か「頼みごとが多すぎる」かのどちらかです。AIは行間を読むのが得意ではないので、前提を省くと一般論で答えてしまいます。また一度に複数のことを頼むと、どれも中途半端になりがちです。的外れだと感じたら、背景を足す・頼むことを1つに絞る・出力の形を指定する、の順で直すと改善します。なお、AIはもっともらしい誤りを書くこともあるため、事実の正しさは最後に必ず人が確認してください。
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